笠原さんが手術後に記しているノート。臓器の図を含め手書きで、随所にメモがある
小児の生体肝移植手術に臨む笠原さん(左)=提供

 臓器移植法施行から16日で26年。海外に比べ、脳死での臓器提供が少ない国内で、生体肝移植は命をつなぐ最終手段として多くの症例を重ねてきた。小児生体肝移植の世界的な専門医で、2000例以上を執刀した国立成育医療研究センター(東京・世田谷)の病院長、笠原群生さん(57)=前橋高出身=が大切にしてきたのは「謙虚さ」だ。

かさはら・むれお 1966年、前橋市生まれ。群馬大医学部卒。京都大移植外科を経て、2005年に国立成育医療研究センター・移植外科医長。同センター臓器移植センター長や特任副院長などを経て、22年4月から現職。

 ―新型コロナウイルスの感染拡大は、診療や医療の体制に大きな影響を与えたと思う。小児・周産期・産科・母性医療を手がける唯一の国立高度専門医療研究センターとして、どんな対応を取ってきたのか。

 センター内でコロナ対策の会議を3年近く続けてきましたが、きょう(10月2日)で会議を終わりにしようと考えています。

 ここは周産期とお子さんの病院です。子どもの療育環境には「面会」がとても大事です。私たちが誇れるのは、コロナ下でも面会禁止にせず、必ず親御さんがお子さんに会えるようにしてきました。病院によっては、面会不可な施設も多かったと思います。私たちはお子さんのことを考え、最大限ご家族と会えるように努力してきました。

 もう一点は、コロナ下でもなるべく多く患者さんを受け入れてきたことです。感染した患者さん、妊産婦さんでも迎え入れる。「断らない医療」を実践してきました。

 ここは全国から重症の患者さんが集まります。一時は、救急車が1日に42台来たことがありました。それでもコロナ感染症を理由に断ったら、助かる命も助かりません。もちろん通常の救急医療やお産もやってきました。私たちが受け入れる妊産婦さんの平均年齢は38歳と通常の産科病院よりやや高めですが、そうした方も含めて制限しませんでした。

 最も厳しかったのは、感染拡大の初期の頃です。例えば耳鼻咽喉関係の手術だとウイルスが飛散してしまう恐れがあります。それで手術を少しお待ちいただいたことはありました。

 ―自らは小児の生体肝移植の専門医。年間の手術数は世界一だったと聞く。

 移植に関わるようになったのは1996年からでした。群馬大を卒業後、4年目に京都大の移植外科に行った時です。京都大は世界一の移植施設でした。ここで修業を積ませていただき、7、8年目くらいの2003年頃に、ようやく自分で執刀する機会をもらいました。

 これまでに2000例以上執刀してきました。海外での手術も少なくありません。

ドナーの意思に謙虚に応える

経験値|120%の努力で10年生存93%

 ―小児の生体肝移植は通常、十数時間かかるというが、自らは平均8時間程度で終了している。

 執刀医の手技だけで実現しているわけではありません。当センターではスタッフも経験を重ねています。麻酔科の医師から看護師、ME(臨床工学技士)、事務方まで、全ての医療従事者の皆さんの経験値が高いのです。そうして移植の準備も早くでき、術後のケアもより丁寧にできています。当センターでは、臓器移植医療が完全に根付いていると感じています。

 ―これまでに最も長かった手術は。

 27時間です。1日以上かかりました。3キロの小さなお子さんで、移植する臓器を何回縫い合わせてもうまく血液が流れないとか、難しいケースもありました。小さい子に臓器を移植すると、血液がうまく流れないことがあります。...