近頃の小学生は切り身の形で魚が泳いでいると思っている―。そんな笑い話を耳にしたのは15年前くらいだろうか。食卓と生産現場が離れてしまったために、このようなことも起こり得るという食育の大切さを伝えていた時の話だ。

 それから15年、もっと離れてしまったと感じている。

 それもそのはず、専業の農家人口は約1%なのだ。会社勤めをしながら週末に農業をしている人を含めても2%で、自動車産業に勤めている人の半分ほどである。

 都市部では農地がなく、周りで農業を仕事としている人に出会うことがほぼない。郊外には農地があるので農家は多い。しかし、平均年齢は66.8歳と高齢化している。高齢化した農家は跡継ぎがいればいいが、そうでない農家は、面積を減らし他人に貸し出したり、廃業したりしており、毎年農家の人口は減っている。

 全国でも指折りの生産量を誇るある市町村の特産品が、たった3軒の農家でほとんど生産されている。出会う方がまれである。そのため、今の農家が何を考え、どうやって生産しているのか、知るのは難しい。

 しかし、現代はインターネットのおかげで情報を得やすくなった。交流サイト(SNS)で農家の日常を垣間見る機会が増えた。ユーチューブでは家庭菜園をしている人向けのチャンネルが多く、インスタグラムやX(旧ツイッター)では日々の作業の様子や、農業を取り巻く現状を投稿している人も多い。

 さまざまなSNSがあるが、農家の本音が一番表れているのが音声配信だろう。農作業とラジオは相性がいい。畑で1人で作業していると話し相手がおらず、音楽を聞くか、ラジオを流すかという選択になる。そのため、農家はラジオ好きな人が多い。

 個人が簡単にインターネット上でラジオ番組を始められるようになり、数年前からラジオ好きの農家がどんどん番組を作っている。農業系のインターネットラジオを農系ポッドキャストと呼び、100番組を超える。

 日常をそのまま配信している人、毎月の精算書や決算書を配信している人、食品を科学的に解説している人、農業の歴史を独自の目線で解説している人、「農家あるある」を楽曲にしている人、雑草の活用方法を話している人など、どなたも個性的で濃い話をしている。

 ラジオだと1時間を超える長尺の配信もできるため、聴き続けていると農家との心理的距離がどんどん近くなっていく。心理的距離が近くなると、不思議と食事がおいしくなってくる。

 あなたのスマートフォンから無料で、いつでも聴けるインターネットラジオを通して農家の声に耳を傾けてみてほしい。遠い畑の生産現場が、ぐっと身近に感じられるはずだ。

 【略歴】2021年に「ぱくぱく農園」を館林市内に開業。22年からポッドキャスト番組「ぱくぱく農園Podcast」を配信する。信州大農学部卒。栃木県足利市出身。