▼180万年前、アフリカ大陸に登場した現代人の祖先ホモ・エレクトスの特徴は体毛が薄く汗をかくことだった。それまでの人類はほかの動物と同じく濃い毛に覆われ、太陽が照りつける日中は動き回ることができなかった

 ▼汗をかけば体の熱を逃がせる。狩りでは暑さで動きが鈍い獲物が力尽きるまで追いかけて仕留めた。その戦略が肉食を進ませ、脳の発達につながっていく。人間は長距離を走ることで進化したらしい

 ▼現代で狩りの必要性に迫られて走る人はいまい。あえて苦しい長距離に挑戦するのはなぜだろう

 ▼この夏、赤城山を舞台にしたトレイルランニング大会で85歳の超人ランナーとして知られる月岡金男さん(埼玉)にお会いした。借金返済のため働き詰めだったが69歳で初マラソンを完走し、今も100キロを超えるレースに出場。とにかく長く走ることが楽しいのだという

 ▼生きる糧という人もいる。知り合いの女性ランナー(前橋)からは大腸がん治療のゴールが見えた直後、転移が見つかり切除したと近況報告を受けた。続けて「下を向いていても良いことはないから、ぐんまマラソンに出場します」と

 ▼ぐんまマラソンはあす号砲。楽しむためか自己実現か、1万4726人がそれぞれの理由で上州路を駆ける。心配は夏日の予想である。人類の汗をかく能力だけでは対応できない。入念な暑さ対策でゴールしてほしい。